オプログ

ここはSF・オプションパーツ2「ケンタウリ」総集編(一般向け)サイトです。  2008.05.11連載再開に向けてテンプレ修正、エントリをシーン単位に変更。 2008.05.24 連載第6回まで掲載。

ADSL・FTTH徹底比較

オプションパーツの技術概要2 宇宙艦の加速力検証

閲覧制限等の理由により、旧作・”オプションパーツ”および資料集の閲覧に支障がある方向けの技術解説その2です。

はじめに
恒星間飛行を目指す”ケンタウリ”のストーリーでは宇宙艦の飛行速度が極めて重要な要素になります。
”オプションパーツ”執筆時にもおおざっぱな計算はしていたのですが、ここらで少しだけまじめに検証しておきます。
最大飛行速度は艦の質量、エンジン推力、エンジンの噴射持続時間の3要素で制限されます。
艦の質量は船体そのものの質量と積載物の質量が合わさったもので積載物のうち最大の要素となる推進剤はエンジン噴射のたびに減少します。
一方で相対性理論にしたがえば速度が上がるにつれて得た運動エネルギー分質量が増加し、光速付近では質量が急速に跳ね上がってついには無限大となります。
ここでは積載状態については最悪条件ということで満載状態について計算します。
なお、相対論による質量増加効果は光速に近くならないとごく僅かなのでここでは無視し、ニュートン物理(高校レベル)の計算で済ませます。
エンジン推力は推力の元になるエネルギー源とそのエネルギーを推進剤に加えて加速し反動を得る仕組みの効率に依存します。
ここでは2つの制限要因の小さい方を最大推力とします。
エンジン噴射時間は積載できる推進剤の量と最大推力での消費率で上限が決まります。
有人宇宙艦では使い捨てでフライバイする探査機と異なり片道の飛行ごとに発進加速と目的地での減速を要します。
よって最高速度は最大噴射時間の約半分で達する速度となります。
「約半分」は推進剤消費により艦の質量が軽くなるため半分を超えますが、飛行の安全のために余力が必要ですから常識的な運用では半分と思ってもよいでしょう。
また目的地が近すぎたり、エンジン推力が小さくて加速が遅すぎると飛行経路を半分飛ぶ間に推進剤の半分を使い切れない場合もあり得ます。
恒星間飛行では目的地が近すぎることはまずあり得ませんが、加速が悪いと最高速度未満で飛ぶ期間が長くなります。
飛行期間の大半を最高速度で飛べないようでは、元々つらい設定になる飛行期間が延びすぎて乗員の寿命が尽きてしまいます。
逆に、加速を良くしすぎると乗員か船体がGに耐えられず壊れてしまいます。
乗員はサイボーグ娘限定ですが、脳を力学的に補強するのは難しいから連続で10G以上などというのはまず耐えられないでしょう。
船体もむやみに強度を上げれば重くなって結局加速が悪くなります。


1.小惑星資源収集艦(旧型)
まずはオプションパーツ初期以来の旧式小惑星資源収集艦について検算します。
ここでしっかり数値を抑えておけば、他の艦種については相対的にその何倍という考えで性能がわかるはずです。
このタイプはメインエンジンがイオン推進、主電源が原子炉という設定でした。
したがってエンジンが時間あたりに使えるエネルギーは原子炉の出力が何ワットかで制限されます。
エンジン自体の推力は推進剤の消費可能量とイオンの噴射速度で決まります。
推進剤の消費可能量は電離装置の処理能力、イオンの噴射速度は加速器の電位差(グリッド電圧)に依存します。
推進剤は水なので電離させるには超臨界状態まで加熱しておいて電界をかけることになります。
加熱が大変なので毎秒何トンといった量は難しくグラム単位の消費率になるでしょう。
加速器の電位差は変圧器や整流器、グリッドまでの送電線といった電気系統の絶縁耐圧で制限されます。
絶縁耐圧を上げるにはどんなに優れた素材を使ってもある程度スペースが必要です。
旧型艦でも船体の直径は16.5mあるので地上の高圧線並みかその少し上の電圧なら耐えられそうです。
以下で「数字1E数字2」は「数字1」かける10の「数字2」乗です。
ブラウザのテキストで上つき数字を表示するのが難しいためこういう表記で代用しています。
有効数字は3桁とし、等号は暗黙のうちに丸め誤差を含んでいます。


1−1.動力による限度
設定の電源出力30万KW=300000000J/s (Jはジュール、1Kgの物体を秒速1m加速するのに必要なエネルギー)
設定の満載重量3200t=3200000Kg (計算するときは単位をおおむねメートル、Kg、秒で統一)
エネルギ−効率100%仮定での加速力=SQR(300000/3200)=9.68m/s/s (SQRは平方根の略)

1−2.推進剤消費率による限度
積載量と想定加速期間による規定最大消費率=100g/s
水1gを分解して得られるH+:OH−対の数=アボガドロ定数/分子量=(6.02E23)/18
イオン加速器の電位差=4000000V(AD2007時点で商用可能な高圧送電の4倍想定)
推進剤1gに与えられる運動エネルギー=4000000*(2*6.02E23)/18eV
1eV=0.162E−12J
推進剤1Kgに与えられる運動エネルギー=4*0.162*2*6.02/18*1E20J=4.33E19J
推進剤1Kgに与えられる運動量=6.58E9Kg/m
推進剤100gに与えられる運動量=6.58E8Kg・m
全部無駄なく反動になれば推力は6億5800万ニュートン
加速度は6億5800万N/320万Kg=205m/s/s、すなわち約21G。

1−3.総合評価
原子炉出力の設定値が推進剤による限度を下回るので、推進剤消費量か加速器電位差が設定以下になり、加速性能は約1Gとなります。
水の電離に要するエネルギーを考慮していないが噴射後の再結合=燃焼で推進力に戻される余地があります。
これのロスが少なければ設定通りの加速力となります。
1Gで1時間加速を続けたときの速度は35Km/sとニューホライズンズよりだいぶ速くなります。
したがって、メインベルト往復や現地で手頃な隕石を探し回ることは時間的に十分可能でしょう。
重力に逆らう必要がある惑星付近での行動もあるので旧型小惑星資源収集艦でも加速力が1Gくらい無いとストーリー上も苦しいところです。
グリッド電圧が設定通りにできるためには絶縁素材や整流素子の発達を期待したいところです。
幸い、地上の発電所はもっと大出力が実現しているし送電線の電圧は20年ごとに倍になるそうなので何とかなるかなというところですね。
自重1000トンの艦に収まるかという問題は、サイボーグ専用艦で地上に降りることもないから遮蔽を手抜きできるということで誤魔化しています。
重くて強度に貢献しない鉛板はあまり使いたくないので居住区と炉の間に推進剤タンクやジャイロの区画をおいてなるべく距離をとっています。
地上と異なり放射性の廃ガスを垂れ流せるので炉心容器より外の原子炉建屋のような厳重な器は要りません。


2.後期型小惑星資源収集艦
動作原理や電圧設定が同じで、イオン加速器が4グリッドから6グリッドになり1基当たり推進剤消費率も多くして推力が1.8倍となる設定です。
地上並みにできるという仮定で原子炉の設定は2倍の出力としたので電源容量増加がそのまま性能に反映されます。
一方、満載重量は1.68倍の5080トンなので満載時最大加速力は19%増になります。
満載状態でストーリー上の性能におおむね一致することは旧型艦と同様です。
旧作でやったような地球低軌道からの垂直上昇も、加速力が1Gを十分超えているのでおそらく安全にできたでしょう。
大型でタンクの無駄が減る分、満載重量に占める推進剤の割合が大きく、帰路はより大きな性能差になります。

3.高速連絡艦
メインエンジンの性能は後期型小惑星資源収集艦と同じ設定なので加速力向上の効果はほとんど軽量化の分です。
満載重量3750トンという設定ですから、イオンエンジンによる加速力は後期型小惑星資源収集艦の1.34倍、初期型の1.45倍です。
この艦型は初期加速用に炉心冷却水を直接噴射して蒸気推進を行う補助推進器を搭載しています。
原子炉の出力とイオンエンジンの消費電力の差の分で余るエネルギーを少しでも推進に回すための装置です。
但し、推進剤を大量に使うためあまり稼働時間が取れません。
その代わり使用中は炉心冷却力も増すので、短時間の運用に限って原子炉を過負荷で使えますから1.2MWくらいは出せるかと言うところです。
推進剤の使用効率は地上の船舶用タービンよりは確実に劣るので1時間だけ2G出せればといった想定です。
それでも発進後1時間で秒速72Km/sとニューホライズンズの3倍の速度に達します。
さらにイオンエンジン単独でのフル加速を10時間も続ければ冥王星がどこの位置にいても1年で到達できそうです。
加速は滑らかにかかるものの軽荷重では6Gほどになるので、乗員の再改造までは必要としないが相応の人選を行うとしました。


4.核パルス推進艦
太陽系内を飛ぶぶんにはパワー不足の心配は無用で、むしろ爆発力が強すぎて爆風受けが保たないのが問題です。
史上最も小さな原爆の威力はTNT換算0.02キロトンでした。
原爆の威力は臨界量で最小が制限されるのでこの辺りが信頼性上の下限でしょう。
1キロトンは4.184E12Jなので1発の最低が8.37E10Jです。
これを毎秒1発使用すると旧型イオン推進艦搭載原子炉の約280倍のエネルギー発生率となります。
艦の満載重量は20倍ほどなので加速度は9.24Gですが、パルス状に推力がかかるため乗員や船体の強度は30G以上を想定することになります。
このため乗員は無脊髄型に再改造する必要がありました。
上記の小型原爆は歩兵砲で使える仕様なので6万発積んでも艦の重量に対し5パーセントほどと推定されます。
ストーリーの最大速度、光速の1%まで加速する場合には9.24Gで9時間強必要なので3万3千発ほどを使用します。
冥王星方面定期便は経済性を重視するので、少し遅く飛んでその分貨物を多く積むことになります。
爆風受けの形状によってはエネルギーの相当割合が推進力にならず逃げてしまうことはありえます。
また、船体や乗員の強度上あるていどロスを多くしないと保たないかもしれません。
それでも積載能力に対する割合が小さいので、ロスで消費が2倍に増えたとしても困ることはないでしょう。

5.恒星間航行艦
満載質量は100万トン強で太陽系内飛行用核パルス推進艦の16倍ほどになります。
性能目標は半年から1年で光速の13%に達しアルファケンタウリまで40年でたどり着けることです。
核パルス1発の大きさと発射間隔が元のままでも9時間*16*13=1872時間=78日で一応達成しそうです。
しかし、核爆弾の消費数が3.3万*16*13=686万発となりその質量が約35万トンと満載質量の35%ほどです。
実際はさらに爆風が逃げるロスを考慮すべきですが、推進弾消費により軽くなる分と相殺で加速はOKでしょうか。
しかし、目的地での減速に要る分で消費量がさらに倍増するし爆風受けのような重い部品が必須なので、ペイロードがゼロになるかも知れません。
またストーリー上は現地に資源が乏しかった場合の帰還まで考慮するので、この性能のままでは使い物にならないという結論になります。
したがって推進弾には重量あたりの爆発エネルギーが大きい核融合弾を使う必要があります。
但し、かつて盛んに実験された水爆のように1発が強力すぎては爆風受けが保ちません。
そこで、小さな核融合を短い間隔で繰り返し起こす方法が必要になります。
核融合の点火方法としてはレーザーが有望視されていますが、レーザー光源とは光の定在波を起こす装置なので強い光が逆流すると不安定になります。
核融合炉の起動のように最初だけ使うなら良いのですが、おそらく連射には向かないと考えられます。
そこでケンタウリのストーリーでは1発目を原爆で点火し、後は爆炎に融合弾を打ち込んで誘爆させるという点火方法を採っています。
この方法が成り立つかどうかは融合弾を核の爆風に逆らって爆炎に飛び込むほど高速で打ち出せるかどうかにかかっています。
爆風受けの損傷を避けるため融合弾1個あたりの威力を点火用原爆の半分低度にし毎秒10回の爆発といったところです。
したがって得られる満載時加速力は4G、最高速度の0.13光速まで到達するのに実働13日ほどといったところです。
推進の合間に融合弾の組み立てを行い爆風受けをメンテナンスする時間を十分とるため、推進システムの稼働率はかなり低いはずです。
発進から最高速度までおよそ半年といった航行ペースを想定しています。
将来、アルファケンタウリより遠方の星系を目指すには稼働率の向上がポイントになりそうです。
但し、最高速度が光速の1/3を超えるとレーダーが障害物を探知する間に接近しすぎてしまって回避できない問題が顕著になります。
したがって、可住惑星らしきものが見つかったグリーゼ581系までの20.4光年はこちらの制限から60年かかります。
乗員の寿命を考えると全身サイボーグは脳以外の老化を避けられるとしても片道飛行で到達可能すれすれと考えられます。
また片道飛行が前提となると、事前に無人探査機を投入し植民可能であることを確認する必要があります。
フライバイなら加速した有人艦から射出するという方法で発進段階を確実に制御すれば成功率は高そうです。
しかし、植民可能性の確認となると無人探査がフライバイでは不十分で周回探査が必要でしょう。
地球からの指令は20年前に確定しなければならず、無人で核パルスエンジンを操って減速するというのも難しいことです。
もし有人で現地においてそれなりの活動をし、なおかつ植民失敗時の帰還まで考慮するなら寿命は200年欲しいところです。
したがって、推進技術より脳の老化を回復する脳修復技術ができるかどうかが581c進出の正否を握ることでしょう。

テーマ:宇宙・科学・技術 - ジャンル:学問・文化・芸術

ケンタウリ総集編解説・目次等 |
| HOME |